無事エコノミーの座席に体を預けることのできた私は、とりあえず狭さに驚いた。
ちなみに元々は通路側の席だったのだが隣のおじさんが窓側の席と交換して欲しいと、ラッキーにも外の景色を眺めることが出来る席を手に入れたのである。
乗客は日本人が多かった。
窓の外は生憎の雨だった。
「もう日本には帰れないかもしれない」
雨に濡れる滑走路を見ながら家を出るときに考えたことが再度頭をよぎる。
英語は話せない。頼れる人もいない一人旅。
海外旅行どころか、一人での国内旅行の経験すらない。
おまけに今回の旅行プランには空港からホテルまでの送迎はない。
自室の机の上には通帳と銀行印、キャッシュカードと暗証番号を置いてきた。
何かあった時に連絡してほしい人たちのリストも置いてきてある。
この旅で少しでも自分を変えたい、何かを得たいと思い家族の反対を押し切って家を出てきたはずだった。
それなのに、滑走路から離れた飛行機の中でちょっと涙が出てきた。
座り心地は正直言って悪かった。
前後の席との間隔は狭く、シートが硬いからからお尻が痛くなる。
機内食が配られる時間はさながら家畜の気分であった。
それでも初めて見る飛行機の外の景色のおかげでまったくもって最悪、というわけではなかった。
午前9:15日本発、現地には午後2:05到着の予定だったので寝るのもどうかと思い機内には本を持ち込んだが、酔ってしまって読むことはできなかった。
ちなみに、この本は旅の終わりまで読むことはなかった。
隣のおじさんは定年後から海外旅行を趣味としているらしい。
同じく一人旅だったので、色々と旅行の話を聞かせてもらった。
私はタイに到着してからは公共交通機関を利用してホテルに行く予定だったのだが、おじさんも同じルートで行くらしい。
初めての海外旅行の私を心配してくれたのか、一緒にバス停に連れて行ってもらえることになった。
予定よりも30分ほど遅れて飛行機はタイのドンムアン空港に到着した。
アナウンスによると現地の気温は37度。機内が笑いに包まれた。
まだまだコートが手放せない日本から灼熱の国へと私は降り立ったのである。
隣の席のおじさんの手助けもあり、入国手続きは無事に完了した。
正直なところ、一人だったらかなり手間取ったと思う。
色々と説明し、助けてくれたおじさんに感謝、そして自分の運の良さに感謝した。
次の記事
前の記事